意外と奥が深い、首都圏のJRの「Local」のお話。
解説記事への疑問
2021年5月21日。私はこのような記事を見かけた。
なるほど。
たしかに首都圏のJRでは、「列車がまいります」と「電車がまいります」の両方を見かける。それが明確に使い分けられているというのは、なかなか面白い。
ところでこの記事には、以下のような記述がある。
ここでJR常磐線の我孫子駅(千葉県我孫子市)を例に挙げます。同駅を発着する定期列車は全て電車ですが、例えば5・6番線を見ると、特急や快速が発着・通過する5番線は「列車が~」、各駅停車が発着する6番線は「電車が~」と表示されます。
また、このような記述もあった。
我孫子駅では、「ひたち」などの特急や上野東京ラインを経由する快速が列車線を、地下鉄千代田線に直通する各駅停車が電車線を走っています。
これを読んだ私は、ひとつの疑問を抱いた。
「常磐線の『快速』って、列車だけか?」
常磐線のふたつの「快速」
以下、Wikipediaの「常磐快速線」の記事を参照の上で執筆している。
常磐線とは、東京都荒川区の日暮里駅を起点とし、宮城県岩沼市の岩沼駅まで至る、JR東日本の鉄道路線である。実際には日暮里方は上野駅まで、岩沼方は仙台駅までそれぞれ東北本線に直通するので、上野駅〜仙台駅が常磐線といっても過言ではないだろう。
そのうち東京都足立区の綾瀬駅から茨城県取手市の取手駅までは、線路が4本走っている複々線区間である(北千住駅〜綾瀬駅は厳密には東京メトロ千代田線の複線との並列であり常磐線としては複線扱い)。この区間のうち綾瀬・亀有・金町・北松戸・馬橋・新松戸・北小金・南柏・北柏の各駅においては、2つ並んでいる複線のうち片方にしかプラットホームが存在せず、もう片方の複線を通る車両はすべて通過する。これらの駅にプラットホームが存在する方の複線を走り、これらの駅すべてに停車するのが、東京メトロ千代田線に直通する「常磐線各駅停車」である。
一方でこれらの駅にプラットホームが存在しない方の複線を走り、これらの駅すべてを通過して松戸・柏・我孫子・天王台・取手の各駅にのみ停車するのが、取手駅以南で「快速」と案内される車両である。
この「快速」と案内される車両であるが、2種類に区別される。それはすなわち、
・緑のライン、オールロングシート、グリーン車なし、E231系0番台
・青のライン、一部ボックス席あり、グリーン車あり、E531系
の2つである。
そしてこれらは運用から明確に分かれており、前者は取手駅以南でしか運用されない一方、後者は原則全列車が取手駅以北と直通で運用される。そして後者は取手駅以北では、「快速」でなく「普通」と案内される。
E231系もE531系も21世紀に入ってから導入された車両であり、以前は別の車両が同じ線路を走っていた。しかしそれらも現在と同じく、取手駅以南のみの系統と、取手駅以北で「普通」となる系統の2つに明確に分かれていた。103系が前者、401系・403系・415系・E501系が後者である。
前者は1971年の綾瀬駅〜我孫子駅複々線化以来、一貫して「快速」と呼称されてきた。複線区間である上野駅〜綾瀬駅間においては、全列車が上野駅・日暮里駅・三河島駅・南千住駅・北千住駅に停車してきた。
一方で後者は2004年10月15日以前、実は「快速」と案内されることがなく、取手駅以南でも「普通」と案内されていた。そして2004年3月12日以前は、この「普通」が上野駅〜綾瀬駅間において三河島駅・南千住駅を通過することがあった。2004年3月13日に三河島駅・南千住駅に全列車が停車することとなり、取手駅以南においては緑の「快速」との停車駅の差が無くなったことで、こちらも「快速」と呼称されることとなった。
すなわち現在の常磐線取手駅以南における「快速」には、取手駅以南で完結し従来から「快速」と呼ばれてきた系統と、取手駅以北に乗り入れ「普通」と呼ばれてきた系統の、2つが存在するということである。
そして2004年以前の常磐線では、「快速」の停車する三河島駅・南千住駅を「普通」が通過することがあった。すなわちこの「快速」は決して「普通」に対する「快速」ではなく、「各駅停車」に対する「快速」なのである。
「普通列車」と「各駅停車の電車」
「普通」と「各駅停車」が併存する状況というのは、とてつもなく厄介である。
しかし実は東海道(本)線においても、同様の事態が生じている。
関東の住民にとって東海道本線といえば、一般にオレンジとグリーンのラインの車両が思い浮かばれると思う。東京〜横浜間において、このオレンジとグリーンの車両の走る線路には東京・新橋・品川・川崎・横浜の各駅にしかプラットフォームが存在せず、「東海道線」で「普通」と案内される車両はこれらの駅のみ停車する。
一方で並走する京浜東北線においては、東京〜横浜間で有楽町・浜松町・田町・高輪ゲートウェイ・大井町・大森・蒲田・鶴見・新子安・東神奈川の各駅にプラットフォームが存在し、「各駅停車」と案内される車両はこれら全駅に停車する。そして京浜東北線というのは実は運転系統の名称に過ぎず、東京〜横浜は厳密には東海道本線となっている(大宮〜東京は東北本線)。
すなわち京浜東北線の東京〜横浜は、東海道本線の各駅停車に相当するのである。(山手線の東京〜品川も同様。)
では、常磐線と東海道本線の例における「普通」とはなんなのか。それはすなわち、「各駅停車」より長い距離を走る車両であり、東京から比較的離れた地域と東京とを結ぶ車両である。これはかつての中・長距離鈍行列車の流れをくみ、「列車」と案内される。
一方で「各駅停車」は、東京近郊の近距離のみを走る。これは国鉄時代に「国電」と呼ばれた系統(JR初期には「E電」と言われたらしいが全く定着せず)の流れをくみ、「電車」と案内される。
常磐線の「普通」、あるいは現在の青の「快速」は「列車」であり、「各駅停車」は「電車」なのである。青い車両は「中距離電車」と呼ばれることもあるが、「列車」である。……紛らわしいね。
では、緑の「快速」はどちらなのか?
常磐線の「快速電車」の存在
「電車特定区間」というものがある。この区間相互発着の乗車券が安くなるという区間であるが、概ね国鉄時代の「国電」の運行範囲を踏襲して定められている。
常磐線の場合、取手駅以南がこれに該当する。すなわち「国電」は常磐線において、取手駅以南の区間で走っていたということだ。「常磐線各駅停車」が最北で取手駅まで来ることを考えても、これは分かりやすい。
そして1970年以降の常磐線の「快速」は、その取手駅以南の区間で走ってきた。そしてこれが、「普通」「列車」でなく「各駅停車」「電車」に対する「快速」だということを踏まえると、この「快速」は「国電」の流れをくんでおり、「電車」であると言える。
常磐線の「快速」は、「列車」に該当する青い「快速」と、「電車」に該当する緑の「快速」の両方が存在するということである。最初に引用した記事の記述は、若干誤っていた。
同時に、常磐線の複々線を「列車線」「電車線」の2つで分けることの正確性も怪しくなる。というのは、同じ「電車」である「各駅停車」と「快速」が別の線路を走るため、「電車線」という括りが不適切だからだ。
青い「快速列車」と緑の「快速電車」が同じ線路を走ることに鑑みても、正しくは「快速線」「緩行線」であろう。実際、「常磐線各駅停車」のことを指して「常磐緩行線」という言葉が使われることもある。
ちなみに常磐線の「普通列車」、現在は取手駅以南において「快速列車」として案内される列車に対する優等種別が、「特別快速列車」である。「普通列車」が停車する三河島・南千住・我孫子・天王台の各駅を通過し、取手駅を超えて土浦駅まで運行される。
「列車線/電車線」と「快速線/緩行線」「急行線/緩行線」
「列車線」「電車線」の分け方は、東海道本線においては適切だと思われる。というのはオレンジとグリーンの車両は「列車」であって(「湘南電車」と呼ばれていたが「列車」である)、この車両が走る線路には「列車」しか走らず、一方で京浜東北線の線路を走るのは京浜東北線快速含めてすべて「電車」だからだ。
これは東北本線においても同様である。東北本線の大宮〜東京において、宇都宮線・高崎線(あるいは上野東京ライン)として案内されるオレンジとグリーンの車両は「列車」であり、これと「電車」に相当する京浜東北線の車両(快速含む)は別の線路を走るため、「列車線」「電車線」として明確に分けられる。
オレンジとグリーンの車両には「普通列車」のほか、「通勤快速」「快速アクティー」「快速ラビット」「快速アーバン」も存在し「普通列車」と同じ線路を走るが、これらは「快速列車」であり間違っても「快速電車」ではない。
一方、常磐線と同様に「各駅停車」と「快速」が別の線路を走る路線として、総武(本)線と中央(本)線が存在する。
総武(本)線の場合、錦糸町駅〜千葉駅が複々線であり、常磐線と同様に「快速」が走る「快速線」と「各駅停車」が走る「緩行線」に分かれる。
中央(本)線の場合、御茶ノ水駅〜三鷹駅が複々線であり(うち代々木駅〜新宿駅は厳密には山手線にあたる)、「快速」が走る「急行線」と「各駅停車」が走る「緩行線」に分かれる。……中央本線に関しては「快速線」でなく「急行線」が正式名称らしい。
総武本線・中央本線の「列車」は?
「快速電車」が存在した常磐線では、「普通列車」(現在は当該区間で「快速」と案内される)が「快速電車」と同じ「快速線」を走っていた。
それでは、同じく「快速電車」と「快速線」「急行線」が存在する総武本線・中央本線において、「普通列車」はどのような存在なのか。
総武本線錦糸町駅〜千葉駅の「快速線」を走る車両は、特急を除くと青のラインの車両(E217系・E235系1000番台)のみであり、「快速」として案内される。これは並走する「各駅停車」に対する「快速」であり、「各駅停車」「快速」ともに国電の流れをくむ「電車」である。……ただし総武本線の電車特定区間は千葉駅以西であり、青のラインの車両はその電車特定区間を超えて、都賀駅以東(総武本線・成田線)あるいは本千葉駅以南(内房線・外房線)まで運行されることがある。
では、電車特定区間内で「快速電車」であった青のラインの車両が電車特定区間外でどうなるかというと、千葉駅を境に列車番号を変えて「列車」になるのである。そしてこの「列車」は、総武本線・成田線に直通する場合は東千葉駅、内房線に直通する場合は巌根駅、外房線に直通する場合は永田・本納・新茂原・八積の各駅を通過するため、「快速列車」である。
一方、千葉駅以東/以南の各駅に停車する総武本線・成田線・内房線・外房線の「普通列車」は、黄色と青のラインの車両(209系2000番台・2100番台)である。この車両は原則、千葉駅以東すなわち「快速線」区間外でのみ運行される。
すなわち総武本線については、千葉駅以西の「快速線」を走る車両は特急を除き原則すべて「電車」であり、一方で千葉駅以東では原則すべての車両が「列車」である。
中央本線御茶ノ水駅〜三鷹駅の「急行線」を走る車両は、特急を除くとオレンジのラインの車両(E233系0番台・209系1000番台)のみであり、「快速」(種別としては「快速」のほかに「通勤快速」「中央特快」「青梅特快」「通勤特別快速」もあり)として案内される(ただし下り快速は平日は中野駅・土休日は吉祥寺駅から「各駅停車」として案内される)。これは並走する「各駅停車」に対する「快速」であり、「各駅停車」「快速」ともに国電の流れをくむ「電車」である。……ただし中央本線の電車特定区間は高尾駅以東であり、オレンジのラインの車両はその電車特定区間を超えて、相模湖駅以西まで運行されることがある。
では、電車特定区間内で「快速電車」であったオレンジのラインの車両が電車特定区間外でどうなるかというと、高尾駅を境に列車番号を変えて「列車」になるのである。この「列車」は相模湖駅以西では通過駅が原則存在せず、「普通列車」である。
一方、中央本線の「普通列車」には「長野色」と呼ばれる塗装の車両(211系)もあり、これは立川駅以西すなわち「急行線」区間外でのみ運用される。また武蔵野線に直通して八王子駅〜大宮駅で運行される「むさしの号」も「普通列車」であり、これも中央本線内では西国分寺駅以西すなわち「急行線」区間外でのみ運行される。
すなわち中央本線については、三鷹駅以東の「急行線」を走る車両は特急を除き原則すべて「電車」であり、一方で高尾駅以西では原則すべての車両が「列車」である。三鷹駅〜高尾駅の複線区間では、「電車」と「列車」の双方が存在する。
……ああ、ややこしい。
ここまでの内容を整理すると、下表のようになる。
|
各駅停車の電車 |
快速電車 |
快速列車 |
||
(東京〜横浜) |
列車線/ 電車線 |
京浜東北線各駅停車 山手線(東京〜品川) |
京浜東北線快速 |
東海道線普通 |
|
(東京〜大宮) |
列車線/ 電車線 |
京浜東北線各駅停車 山手線(東京〜田端) |
京浜東北線快速 |
||
急行線/ |
中央・総武線各駅停車 |
(高尾駅以西の中央線快速系各種別) |
- |
||
(錦糸町〜千葉) |
快速線/ |
中央・総武線各駅停車 |
(千葉駅以東の総武本線普通) |
(千葉駅以東の総武線快速) |
|
(綾瀬〜取手) |
快速線/ |
常磐線各駅停車(千代田線直通) |
常磐線快速 |
常磐線普通 (取手駅以南快速) |
常磐線特別快速 |
なお、湘南新宿ラインの「列車」はこれとは別に、「貨物線」(東北本線大宮駅〜田端駅)および支線「品鶴線」(東海道本線品川駅〜横浜駅)を通る。
また東北本線については、東京駅〜神田駅の複線を中央線快速系各種別の電車が、上野駅〜日暮里駅の複線を常磐線快速電車・普通(快速)列車・特別快速列車が使う。東北本線・東海道本線の上野駅〜品川駅においては、「列車線」に上野東京ライン直通の常磐線快速電車・普通(快速)列車・特別快速列車が入線することがある。
「普通電車」、「各駅停車の列車」
ここまでの整理の限り、原則として「普通」は「列車」に、「各駅停車」は「電車」に対応する。しかしその例外が存在する。
(運転系統としての)横須賀線は「普通」と案内されるが、「電車」である。横須賀線は東京〜久里浜の全区間が電車特定区間に含まれており、国電の流れをくんでいると考えられる。
ではなぜ「各駅停車」でないのかという問題だが、東海道本線区間である東京駅〜品川駅で有楽町・浜松町・田町・高輪ゲートウェイ、鶴見駅〜横浜駅で鶴見・新子安・東神奈川の各駅を通過するからであろうか。(ただしこの理論では、山手線の特定駅を通過する埼京線が「各駅停車」であることと整合がつかない。)
なお東海道本線の横浜駅〜大船駅では、横須賀線の線路が東海道本線の「電車線」に相当するといえる。この区間、横須賀線の「普通電車」は各駅に停車する。しかし同じ線路を湘南新宿ラインの「列車」も通るため、本当に「電車線」と呼んで良いかは怪しい。
一方、新宿駅以南の埼京線・相鉄直通線は「各駅停車」と案内されるが、「列車」である。
なぜ埼京線と同様の「電車」でないのかという問題だが、鶴見駅〜羽沢横浜国大駅の区間において、この車両の他には同じく「列車」と案内される貨物列車や特急「湘南」の一部列車しか走っておらず、それとの整合性を考えた結果であろうか。
正直、よく分からない部分もある。
「電車がまいります」「列車がまいります」などの電光掲示板の表示をしっかりと調査し、この「電車」「列車」や「各駅停車」「普通」に関する関係性を、さらに明確にしていきたいものだ。